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Letteratura
土佐日記
Edizione BooksWhale in giapponese di Ki no Tsurayuki
旅、日記文学、和歌、喪失と宮廷文化をめぐる公版古典を、読みやすい本文で収録した版です。
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土佐日記
『土佐日記』は旅、日記文学、和歌、喪失と宮廷文化をめぐる公版古典です。この日本語版は、作品の流れを追いやすいよう本文を整えて提供します。
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紀貫之は945年に没し、『土佐日記』は935年頃に初めて刊行または成立しました。これらの年代は、本版で用いる底本の公版性を支える根拠になります。
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土佐日記
Capitolo in anteprima第1部Anteprima
男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。それの年 のしはすの二十日あまり一日の、戌の時に門出す。そのよしいさゝかものにかきつく。ある人縣の四年五年はてゝ例のことゞも皆しをへて、解由など取りて住むたちより出でゝ船に乘るべき所へわたる。かれこれ知る知らぬおくりす。年ごろよく具しつる人々 なむわかれ難く思ひてその日頻にとかくしつゝのゝしるうちに夜更けぬ。
廿二日 、和泉の國までとたひらかにねがひたつ。藤原の言實船路なれど馬の餞す。上中下ながら醉ひ過ぎていと怪しくしほ海のほとりにてあざれあへり。
廿三日、八木の康敎といふ人あり。この人國に必ずしもいひつかふ者にもあらざる なり。これぞ正しきやうにて馬の餞したる。かみがらにやあらむ、國人の心の常として今はとて見えざなるを心あるものは恥ぢずき なむきける。これは物によりて譽むるにしもあらず。
廿四日、講師馬の餞しに出でませり。ありとある上下童まで醉ひしれて、一文字をだに知らぬものしが、足は十文字に踏みてぞ遊ぶ。
廿五日、守のたちより呼びに文もて來れり。呼ばれて至りて日ひとひ夜ひとよとかく遊ぶや うにて明けにけり。
廿六日、なほ守のたちにてあるじしのゝしりてをのこらまでに物かづけたり。からうた聲あげていひけり。やまとうた、あるじもまらうどもこと人もいひあへりけり。からうたはこれにはえ書かず。やまとうたあるじの守のよめりける、
「都いでゝ君に逢はむとこしものをこしかひもなく別れぬるかな」
となむありければ、かへる前の守のよめりける、
「しろたへの浪路を遠くゆきかひて我に似べきはたれならなくに」。
ことひとびとのもありけれどさかしきもなかるべし。とかくいひて前の守も今のも諸共におりて、今のあるじも前のも手取りかはしてゑひごとに心よげなることして出でにけり。
廿七日、大津より浦戶をさして漕ぎ出づ。かくあるうちに京にて生れたりし女子 こゝにて俄にうせにしかば、この頃の出立いそぎを見れど何事もえいはず。京へ歸るに女子のなきのみぞ悲しび戀ふる。ある人々もえ堪へず。この間にある人のかきて出せる歌、
「都へとおもふもものゝかなしきはかへらぬ人のあればなりけり」。
又、或時には、
「あるものと忘れつゝなほなき人をいづらと問ふぞ悲しかりける」
といひける間に鹿兒の崎といふ所に守のはらからまたことひとこれかれ酒なにど持て追ひきて、磯におり居て別れ難きことをいふ。守のたちの人々の中にこの來る人々ぞ心あるやう にはいはれほのめく。かく別れ難くいひて、かの人々の口網ももろもちにてこの海邊にて荷ひいだせる歌、
「をしと思ふ人やとまるとあし鴨のうちむれてこそわれはきにけれ」
といひてありければ、いといたく愛でゝ行く人のよめりける、
「棹させど底ひもしらぬわたつみのふかきこゝろを君に見るかな」
といふ間に楫取ものゝ哀も知らでおのれし酒をくらひつれば、早くいなむとて「潮滿ちぬ。風も吹きぬべし」とさわげば船に乘りなむとす。この折にある人々折節につけて、からうたども時に似つかはしき いふ。又ある人西國なれど甲斐歌などいふ。かくうたふに、ふなやかたの塵も散り、空ゆく雲もたゞよひぬとぞいふなる。今宵浦戶にとまる。藤原のとき實、橘の季衡、こと人々追ひきたり。
廿八日、浦戶より漕ぎ出でゝ大湊をおふ。この間にはやくの國の守の子山口の千岑、酒よき物どももてきて船に入れたり。ゆくゆく飮みくふ。
廿九日、大湊にとまれり。くす師ふりはへて屠蘇白散酒加へてもて來たり。志あるに似たり。
Capitolo in anteprima第2部Anteprima
元日、なほ同じとまりなり。白散をあるもの夜のまとてふなやかたにさしはさめりければ、風に吹きならさせて海に入れてえ飮まずなりぬ。芋し あらめも齒固めもなし。かやうの物もなき國なり。求めもおかず。唯おしあゆの口をのみぞ吸ふ。このすふ人々の口を押年魚もし思ふやうあらむや。今日は都のみぞ思ひやらるゝ。「九重の門のしりくめ繩のなよしの頭 ひゝら木らいかに」とぞいひあへる。
二日、なほ大湊にとまれり。講師、物、酒などおこせたり。
三日、同じ所なり。もし風浪のしばしと惜む心やあらむ、心もとなし。
四日、風吹けばえ出でたゝず。昌連酒よき物たてまつれり。このかうやうの物もて來るひとになほしもえあらでいさゝげわざせさすものもなし。にぎはゝしきやうなれどまくるこゝちす。
五日、風浪やまねば猶同じ所にあり。人々絕えずとぶらひにく。
六日、きのふのごとし。
七日になりぬ。同じ湊にあり。今日は白馬を思へどかひなし。たゞ浪の白きのみぞ見ゆる。かゝる間に人の家 の池と名ある所より鯉はなくて鮒よりはじめて川のも、海のも、ことものども、ながひつにになひつゞけておこせたり。わかなこに入れて雉など花につけたり 。若菜ぞ今日をば知らせたる。歌あり。そのうた、
「淺茅生の野邊にしあれば水もなき池につみつるわかななりけり」。
いとをかしかし。この池といふは所の名なり。よき人の男につきて下りて住みけるなり。この長櫃の物は皆人童までにくれたれば、飽き滿ちて舟子どもは腹鼓をうちて海をさへおどろかして浪たてつべし。かくてこの間に事おほかり。けふわりごもたせてきたる人、その名などぞや、今思ひ出でむ。この人歌よまむと思ふ心ありてなりけり。とかくいひいひて浪の 立つなることゝ憂へいひて詠める歌、
「ゆくさきにたつ白浪の聲よりもおくれて泣かむわれやまさらむ」
とぞ 詠める。いと大聲なるべし。持てきたる物よりは歌はいかゞあらむ。この歌を此彼あはれがれども一人りも返しせず。しつべき人も交れゝどこれをのみいたがり物をのみくひて夜更けぬ。この歌ぬしなむ「またまからず」といひてたちぬ。ある人の子の童なる密にいふ「まろこの歌の返しせむ」といふ。驚きて「いとをかしきことかな。よみてむやは。詠みつべくばはやいへかし」といふ 。「まからずとて立ちぬる人を待ちてよまむ」とて求めけるを、夜更けぬとにやありけむ、やがていにけり。「そもそもいかゞ詠んだる」といぶかしがりて問ふ。この童さすがに恥ぢていはず。强ひて問へばいへるうた、
「ゆく人もとまるも袖のなみだ川みぎはのみこそぬれまさりけれ」
となむ詠める。かくはいふものか、うつくしければにやあらむ、いと思はずなり。童ごとにては何かはせむ、女翁にをしつべし、惡しくもあれいかにもあれ、たよりあらば遣らむとておかれぬめり。
八日、さはる事ありて猶同じ所なり。今宵の月は海にぞ入る。これを見て業平の君の「山のはにげて入れずもあらなむ」といふ歌なむおもほゆる。もし海邊にてよまゝしかば「浪たちさへて入れずもあらなむ」と詠みてましや。今この歌を思ひ出でゝある人のよめりける、
「てる月のながるゝ見ればあまの川いづるみなとは海にざ りける」
とや。
九日、つとめて大湊より那波の泊をおはむとて漕ぎ出でにけり。これかれ互に國の境の內はとて見おくりにくる人數多が中に藤原のときざね、橘の季衡、長谷部の行政等なむみたちより出でたうびし日より此所彼所におひくる。この人々ぞ志ある人なりける。この人々の深き志はこの海には劣らざるべし。これより今は漕ぎ離れて往く。これを見送らむとてぞこの人どもは追ひきける。かくて漕ぎ行くまにまに海の邊にとまれる人も遠くなりぬ。船の人も見えずなりぬ。岸にもいふ事あるべし、船にも思ふことあれどかひなし。かゝれどこの歌を獨言にしてやみぬ。
「おもひやる心は海を渡れどもふみしなければ知らずやあるらむ」。
かくて宇多の松原を行き過ぐ。その松の數幾そばく、幾千年へたりと知らず。もとごとに浪うちよせ枝ごとに鶴ぞ飛びかふ。おもしろしと見るに堪へずして船人のよめる歌、
「見渡せば松のうれごとにすむ鶴は千代のどちとぞ思ふべらなる」
とや。この歌は所を見るにえまさらず。かくあるを見つゝ漕ぎ行くまにまに、山も海もみなくれ、夜更けて、西ひんがしも見えずして、てけのこと檝取の心にまかせつ。男もならはねば いとも心細し。まして女は船底に頭をつきあてゝねをのみぞなく。かく思へば舟子檝取は船歌うたひて何とも思へらず。そのうたふうたは、
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