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Japanese Edition

Literature

彼岸過迄

Japanese BooksWhale Edition by Natsume Sōseki

漱石中期の連作長編。探偵趣味、家庭、恋愛、孤独、近代都市の心理が交差する。

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Book introduction

彼岸過迄

『彼岸過迄』は、敬太郎をめぐる探索的な導入から、須永・千代子・松本らの関係へ進み、近代日本の家庭、職業、恋愛、孤独を細かく描く。断片的な語りが人物の心理を少しずつ照らし、漱石中期の小説らしい知的緊張と人間観察を備えた長編である。

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This edition is based on a public domain text and has been prepared for digital reading by BooksWhale.

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『彼岸過迄』は作者没年(1916)および成立・初刊時期(1912年前後)から公版範囲にある作品です。本版は日本語原文を整理したものです。

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彼岸過迄

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事実を読者の前に告白すると、去年の八月頃すでに自分の小説を紙上に連載すべきはずだったのである。ところが余り暑い盛りに大患後の身体をぶっ通しに使うのはどんなものだろうという親切な心配をしてくれる人が出て来たので、それを好い機会に、なお二箇月の暇を貪ることにとりきめて貰ったのが原で、とうとうその二箇月が過去った十月にも筆を執らず、十一十二もつい紙上へは杳たる有様で暮してしまった。自分の当然やるべき仕事が、こういう風に、崩れた波の崩れながら伝わって行くような具合で、ただだらしなく延びるのはけっして心持の好いものではない。 歳の改まる元旦から、いよいよ事始める緒口を開くように事がきまった時は、長い間抑えられたものが伸びる時の楽よりは、背中に背負された義務を片づける時機が来たという意味でまず何よりも嬉しかった。けれども長い間抛り出しておいたこの義務を、どうしたら例よりも手際よくやってのけられるだろうかと考えると、また新らしい苦痛を感ぜずにはいられない。 久しぶりだからなるべく面白いものを書かなければすまないという気がいくらかある。それに自分の健康状態やらその他の事情に対して寛容の精神に充ちた取り扱い方をしてくれた社友の好意だの、また自分の書くものを毎日日課のようにして読んでくれる読者の好意だのに、酬いなくてはすまないという心持がだいぶつけ加わって来る。で、どうかして旨いものができるようにと念じている。けれどもただ念力だけでは作物のできばえを左右する訳にはどうしたって行きっこない、いくら佳いものをと思っても、思うようになるかならないか自分にさえ予言のできかねるのが述作の常であるから、今度こそは長い間休んだ埋合せをするつもりであると公言する勇気が出ない。そこに一種の苦痛が潜んでいるのである。 この作を公にするにあたって、自分はただ以上の事だけを言っておきたい気がする。作の性質だの、作物に対する自己の見識だの主張だのは今述べる必要を認めていない。実をいうと自分は自然派の作家でもなければ象徴派の作家でもない。近頃しばしば耳にするネオ浪漫派の作家ではなおさらない。自分はこれらの主義を高く標榜して路傍の人の注意を惹くほどに、自分の作物が固定した色に染つけられているという自信を持ち得ぬものである。またそんな自信を不必要とするものである。ただ自分は自分であるという信念を持っている。そうして自分が自分である以上は、自然派でなかろうが、象徴派でなかろうが、ないしネオのつく浪漫派でなかろうが全く構わないつもりである。 自分はまた自分の作物を新しい新しいと吹聴する事も好まない。今の世にむやみに新しがっているものは三越呉服店とヤンキーとそれから文壇における一部の作家と評家だろうと自分はとうから考えている。 自分はすべて文壇に濫用される空疎な流行語を藉りて自分の作物の商標としたくない。ただ自分らしいものが書きたいだけである。手腕が足りなくて自分以下のものができたり、衒気があって自分以上を装うようなものができたりして、読者にすまない結果を齎すのを恐れるだけである。 東京大阪を通じて計算すると、吾朝日新聞の購読者は実に何十万という多数に上っている。その内で自分の作物を読んでくれる人は何人あるか知らないが、その何人かの大部分はおそらく文壇の裏通りも露路も覗いた経験はあるまい。全くただの人間として大自然の空気を真率に呼吸しつつ穏当に生息しているだけだろうと思う。自分はこれらの教育あるかつ尋常なる士人の前にわが作物を公にし得る自分を幸福と信じている。 「彼岸過迄」というのは元日から始めて、彼岸過まで書く予定だから単にそう名づけたまでに過ぎない実は空しい標題である。かねてから自分は個々の短篇を重ねた末に、その個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだら、新聞小説として存外面白く読まれはしないだろうかという意見を持していた。が、ついそれを試みる機会もなくて今日まで過ぎたのであるから、もし自分の手際が許すならばこの「彼岸過迄」をかねての思わく通りに作り上げたいと考えている。けれども小説は建築家の図面と違って、いくら下手でも活動と発展を含まない訳に行かないので、たとい自分が作るとは云いながら、自分の計画通りに進行しかねる場合がよく起って来るのは、普通の実世間において吾々の企てが意外の障害を受けて予期のごとくに纏まらないのと一般である。したがってこれはずっと書進んで見ないとちょっと分らない全く未来に属する問題かも知れない。けれどもよし旨く行かなくっても、離れるともつくとも片のつかない短篇が続くだけの事だろうとは予想できる。自分はそれでも差支えなかろうと思っている。 (明治四十五年一月此作を朝日新聞に公けにしたる時の緒言)

Preview chapter風呂の後Preview

風呂の後

Table of contents

Inside this edition

  1. 01Full text
  2. 02彼岸過迄に就て
  3. 03風呂の後
  4. 04
  5. 05
  6. 06
  7. 07
  8. 08
  9. 09
  10. 10
  11. 11
  12. 12
  13. 13
  14. 14十一
  15. 15十二
  16. 16停留所
  17. 17
  18. 18
  19. 19
  20. 20
  21. 21
  22. 22
  23. 23
  24. 24
  25. 25
  26. 26
  27. 27十一
  28. 28十二
  29. 29十三
  30. 30十四
  31. 31十五
  32. 32十六
  33. 33十七
  34. 34十八
  35. 35十九
  36. 36二十
  37. 37二十一
  38. 38二十二
  39. 39二十三
  40. 40二十四
  41. 41二十五
  42. 42二十六
  43. 43二十七
  44. 44二十八
  45. 45二十九
  46. 46三十
  47. 47三十一
  48. 48三十二
  49. 49三十三
  50. 50三十四
  51. 51三十五
  52. 52三十六
  53. 53報告
  54. 54
  55. 55
  56. 56
  57. 57
  58. 58
  59. 59
  60. 60
  61. 61
  62. 62
  63. 63
  64. 64十一
  65. 65十二
  66. 66十三
  67. 67十四
  68. 68雨の降る日
  69. 69
  70. 70
  71. 71
  72. 72
  73. 73
  74. 74
  75. 75
  76. 76
  77. 77須永の話
  78. 78
  79. 79
  80. 80
  81. 81
  82. 82
  83. 83
  84. 84
  85. 85
  86. 86
  87. 87
  88. 88十一
  89. 89十二
  90. 90十三
  91. 91十四
  92. 92十五
  93. 93十六
  94. 94十七
  95. 95十八
  96. 96十九
  97. 97二十
  98. 98二十一
  99. 99二十二
  100. 100二十三
  101. 101二十四
  102. 102二十五
  103. 103二十六
  104. 104二十七
  105. 105二十八
  106. 106二十九
  107. 107三十
  108. 108三十一
  109. 109三十二
  110. 110三十三
  111. 111三十四
  112. 112三十五
  113. 113松本の話
  114. 114
  115. 115
  116. 116
  117. 117
  118. 118
  119. 119
  120. 120
  121. 121
  122. 122
  123. 123
  124. 124十一
  125. 125十二
  126. 126結末

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