
Japanese Edition
Literature
邪宗門
Japanese BooksWhale Edition by 北原白秋
異国の宗教、色彩、香り、音楽が重なり、若き北原白秋の感覚世界を形づくる第一詩集。
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Book introduction
邪宗門
北原白秋の第一詩集『邪宗門』は、切支丹のイメージや異国的な器物、色彩、香り、音楽を重ねながら、感覚と内面の揺らぎを詩にする。「邪宗門秘曲」をはじめ、「魔睡」「外光と印象」「天草雅歌」「青き花」「古酒」へと展開する詩の世界を収録。著者の献辞と例言を含む日本語原文版で、詩行と連の呼吸、作品ごとの境界を保って読む。
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北原白秋は1942年に没し、本作は1909年に刊行された。著作権保護期間を経過した日本語原文を用いる。
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Preview chapter献辞Read preview
父上に献ぐ
父上、父上ははじめ望み給はざりしかども、児は遂にその生れたるところにあこがれて、わかき日をかくは歌ひつづけ候ひぬ。もはやもはや咎め給はざるべし。
Preview chapter邪宗門扉銘Preview
ここ過ぎて曲節の悩みのむれに、
ここ過ぎて官能の愉楽のそのに、
ここ過ぎて神経のにがき魔睡に。
詩の生命は暗示にして単なる事象の説明には非ず。かの筆にも言語にも言ひ尽し難き情趣の限なき振動のうちに幽かなる心霊の欷歔をたづね、縹渺たる音楽の愉楽に憧がれて自己観想の悲哀に誇る、これわが象徴の本旨に非ずや。されば我らは神秘を尚び、夢幻を歓び、そが腐爛したる頽唐の紅を慕ふ。哀れ、我ら近代邪宗門の徒が夢寝にも忘れ難きは青白き月光のもとに欷歔く大理石の嗟嘆也。暗紅にうち濁りたる埃及の濃霧に苦しめるスフィンクスの瞳也。あるはまた落日のなかに笑へるロマンチツシユの音楽と幼児磔殺の前後に起る心状の悲しき叫也。かの黄臘の腐れたる絶間なき痙攣と、ヸオロンの三の絃を擦る嗅覚と、曇硝子にうち噎ぶウヰスキイの鋭き神経と、人間の脳髄の色したる毒艸の匂深きためいきと、官能の魔睡の中に疲れ歌ふ鶯の哀愁もさることながら、仄かなる角笛の音に逃れ入る緋の天鵞絨の手触の棄て難さよ。
昔よりいまに渡り来る黒船縁がつくれば鱶の餌となる。サンタマリヤ。
『長崎ぶり』
Preview chapter例言Preview
一、本集に収めたる六章約百二十篇の詩は明治三十九年の四月より同四十一年の臘月に至る、即最近三年間の所作にして、集中の大半は殆昨一年の努力に成る。就中『古酒』中の「よひやみ」「柑子」「晩秋」の類最も旧くして『魔睡』中に載せたる「室内庭園」「曇日」の二篇はその最も新しきものなり。
一、予が真に詩を知り初めたるは僅に此の二三年の事に属す。されば此の間の前後に作られたる種々の傾向の詩は皆予が初期の試作たるを免れず。従て本集の編纂に際しては特に自信ある代表作物のみを精査し、少年時の長篇五六及その後の新旧作七十篇の余は遺憾なく割愛したり。この外百篇に近き『断章』と『思出』五十篇の著作あれども、紙数の制限上、これらは他の新しき機会を待ちて出版するの已むなきに到れり。
一、予が象徴詩は情緒の諧楽と感覚の印象とを主とす。故に、凡て予が拠る所は僅かなれども生れて享け得たる自己の感覚と刺戟苦き神経の悦楽とにして、かの初めより情感の妙なる震慄を無みし只冷かなる思想の概念を求めて強ひて詩を作為するが如きを嫌忌す。されば予が詩を読まむとする人にして、之に理知の闡明を尋ね幻想なき思想の骨格を求めむとするは謬れり。要するに予が最近の傾向はかの内部生活の幽かなる振動のリズムを感じその儘の調律に奏でいでんとする音楽的象徴を専とするが故に、そが表白の方法に於ても概ねかの新しき自由詩の形式を用ゐたり。
一、或人の如きは此の如き詩を嗤ひて甚しき跨張と云ひ、架空なる空想を歌ふものと做せども、予が幻覚には自ら真に感じたる官能の根抵あり。且、人の天分にはそれそれ自らなる相違あり、強ひて自己の感覚を尺度として他を律するは謬なるべし。
一、本来、詩は論ふべききはのものにはあらず。嘗て幾多の譏笑と非議と謂れなき誤解とを蒙りたるにも拘らず、予の単に創作にのみ執して、一語もこれに答ふる所なかりしは、些か自己の所信に安じたればなり。
一、終に、現時の予は文芸上の如何なる結社にも与らず、又、如何なる党派の力をも恃む所なき事を明にす。要は只これらの羈絆と掣肘とを放れて、予は予が独自なる個性の印象に奔放なる可く、自由ならんことを欲するものなり。
一、尚、本集を世に公にする事を得たる所以のものは、これ一に蒲原有明、鈴木皷村両氏の深厚なる同情に依る、ここに謹謝す。
明治四十二年一月
著者識
Table of contents
Inside this edition
- 01献辞
- 02邪宗門扉銘
- 03例言
- 04魔睡
- 05邪宗門秘曲
- 06室内庭園
- 07陰影の瞳
- 08赤き僧正
- 09WHISKY.
- 10天鵝絨のにほひ
- 11濃霧
- 12赤き花の魔睡
- 13麦の香
- 14曇日
- 15秋の瞳
- 16空に真赤な
- 17秋のをはり
- 18十月の顔
- 19接吻の時
- 20濁江の空
- 21魔国のたそがれ
- 22蜜の室
- 23酒と煙草に
- 24鈴の音
- 25夢の奥
- 26窓
- 27昨日と今日と
- 28わかき日
- 29朱の伴奏
- 30謀坂
- 31こほろぎ
- 32序楽
- 33納曾利
- 34ほのかにひとつ
- 35耽溺
- 36といき
- 37黒船
- 38地平
- 39ふえのね
- 40下枝のゆらぎ
- 41雨の日ぐらし
- 42狂人の音楽
- 43風のあと
- 44月の出
- 45外光と印象
- 46冷めがたの印象
- 47赤子
- 48暮春
- 49噴水の印象
- 50顔の印象 六篇
- 51A 精舎
- 52B 狂へる街
- 53C 醋の甕
- 54D 沈丁花
- 55E 不調子
- 56F 赤き恐怖
- 57盲ひし沼
- 58青き光
- 59樅のふたもと
- 60夕日のにほひ
- 61浴室
- 62入日の壁
- 63狂へる椿
- 64吊橋のにほひ
- 65硝子切るひと
- 66悪の窓 断篇七種
- 67一 狂念
- 68二 疲れ
- 69三 薄暮の負傷
- 70四 象のにほひ
- 71五 悪のそびら
- 72六 薄暮の印象
- 73七 うめき
- 74蟻
- 75華のかげ
- 76幽閉
- 77鉛の室
- 78真昼
- 79天草雅歌
- 80天艸雅歌
- 81角を吹け
- 82ほのかなる蝋の火に
- 83艣を抜けよ
- 84汝にささぐ
- 85ただ秘めよ
- 86さならずば
- 87嗅煙艸
- 88鵠
- 89日ごとに
- 90黄金向日葵
- 91一炷
- 92青き花
- 93青き花
- 94君
- 95桑名
- 96朝
- 97紅玉
- 98海辺の墓
- 99渚の薔薇
- 100紐
- 101昼
- 102夕
- 103羅曼底の瞳
- 104古酒
- 105恋慕ながし
- 106煙草
- 107舗石
- 108驟雨前
- 109解纜
- 110日ざかり
- 111軟風
- 112大寺
- 113ひらめき
- 114立秋
- 115玻璃罎
- 116微笑
- 117砂道
- 118凋落
- 119晩秋
- 120あかき木の実
- 121かへりみ
- 122なわすれぐさ
- 123わかき日の夢
- 124よひやみ
- 125一瞥
- 126旅情
- 127柑子
- 128内陣
- 129懶き島
- 130灰色の壁
- 131失くしつる
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