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Japanese Edition

Literature

照葉狂言

Japanese BooksWhale Edition by Izumi Kyōka

少年の記憶に刻まれた人々との出会いを、旅芸と愛情の気配が漂う抒情的な言葉で描く泉鏡花の小説。

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Book introduction

照葉狂言

泉鏡花が、少年の目に映る人々の姿と忘れがたい感情を描く作品。旅芸に結びつく世界や身近な生活の風景が、あこがれ、不安、別れの記憶とともに語られる。言葉の響きや人物のしぐさが場面の情緒をつくり、現実の出来事に夢のような余韻を与える。鏡花の抒情的な物語世界に触れる日本語原文。

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How this edition was prepared

This edition is based on a public domain text and has been prepared for digital reading by BooksWhale.

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泉鏡花(1873—1939)の日本語原著。作者の没年に基づき原作の著作権保護期間は満了している。青空文庫の原文を底本とし、現代の解説や入力・校正情報は本文に含めない。

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照葉狂言

泉鏡花

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鞠唄

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二坪に足らぬ市中の日蔭の庭に、よくもこう生い立ちしな、一本の青楓、塀の内に年経たり。さるも老木の春寒しとや、枝も幹もただ日南に向いて、戸の外にばかり茂りたれば、広からざる小路の中を横ぎりて、枝さきは伸びて、やがて対向なる、二階家の窓に達かんとす。その窓に時々姿を見せて、われに笑顔向けたまうは、うつくしき姉上なり。

朝な夕な、琴弾きたまうが、われ物心覚えてより一日も断ゆることなかりしに、わが母みまかりたまいし日よりふと止みぬ。遊びに行きし時、その理由問いたるに、何ゆえというにはあらず、飽きたればなりとのたまう。されど彼家なる下婢の、密にその実を語りし時は、稚心にもわれ嬉しく思い染みぬ。

「それはね、坊ちゃん、あの何ですッて。あなたのね、母様がおなくなり遊ばしたのを、御近所に居ながら鳴物もいかがな訳だって、お嬢様が御遠慮を遊ばすんでございますよ。」

その隣家に三十ばかりの女房一人住みたり。両隣は皆二階家なるに、其家ばかり平家にて、屋根低く、軒もまた小かなりければ、大なる凹の字ぞ中空に描かれたる。この住居は狭かりけれど、奥と店との間に一の池ありて、金魚、緋鯉など夥多養いぬ。誰が飼いはじめしともなく古くより持ち伝えたるなり。近隣の人は皆年久しく住みたれど、そこのみはしばしば家主かわりぬ。さればわれその女房とはまだ新らしき馴染なれど、池なる小魚とは久しき交情なりき。

「小母さん小母さん」

この時髪や洗いけん。障子の透間より差覗けば、膚白く肩に手拭を懸けたるが、奥の柱に凭りかかれり。

「金魚は、あの内に居るかい。」

「居ますとも、なぜ今朝ッからいらっしゃらないッて、待ってるわ、貢さん。」

「そう。」

「あら、そう、じゃアありません、お入りなさいよ、ちょいと。」

「だって開かないもの、この戸は重いねえ。」

手を空ざまに、我が丈より高き戸の引手を押せば、がたがたと音したるが、急にずらりと開く。婦人は上框に立ちたるまま、腕を延べたる半身、斜に狭き沓脱の上に蔽われかかれる。その袖の下を掻潜りて、衝と摺抜けつつ、池ある方に走り行くをはたはたと追いかけて、後より抱き留め、

「なぜそうですよ。金魚ばかりせッついて、この児は。私ともお遊びッてば、厭かい。」

と微笑みたり。

「うむ。」

「うむ、じゃアありません。そんなことをお言いだと私ゃ金魚を怨みますよ。そして貢さんのお見えなさらない時に、焼火箸を押着けて、ひどい目に逢わせてやるよ。」

「厭だ。」

「それじゃ、まあお坐んなさい。そしてまた手鞠歌を唄ってお聞かせな。あの後が覚えたいからさ。何というんだっけね。……二両で帯を買うて、三両で絎けて、二両で帯を買うて、それから、三両で絎けて、そうしてどうするの、三両で絎けて……」

「今年はじめて花見に出たら、寺の和尚に抱き留められて。」

とわれは節つけて唄い出しぬ。

婦人は耳を澄して聞く。

「寺の和尚に抱き留められて、止しゃれ、放しゃれ、帯切らしゃるな。」

「おや、お上手だ。」と障子の外より誰やらむ呼ぶ者ありけり。

Table of contents

Inside this edition

  1. 01Full text
  2. 02鞠唄
  3. 03一
  4. 04二
  5. 05三
  6. 06四
  7. 07仙冠者
  8. 08一
  9. 09二
  10. 10野衾
  11. 11一
  12. 12二
  13. 13三
  14. 14四
  15. 15五
  16. 16狂言
  17. 17一
  18. 18二
  19. 19三
  20. 20四
  21. 21五
  22. 22六
  23. 23夜の辻
  24. 24一
  25. 25二
  26. 26三
  27. 27四
  28. 28五
  29. 29仮小屋
  30. 30一
  31. 31二
  32. 32三
  33. 33四
  34. 34五
  35. 35井筒
  36. 36一
  37. 37二
  38. 38三
  39. 39四
  40. 40五
  41. 41重井筒
  42. 42一
  43. 43二
  44. 44三
  45. 45四
  46. 46五
  47. 47峰の堂
  48. 48一
  49. 49二

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