BooksWhaleBooksWhale
Account
若菜集 cover

Japanese Edition

Literature

若菜集

Japanese BooksWhale Edition by Shimazaki Toson

近代日本詩の出発点を示す、青春、恋、自然、憧れを歌う藤村の詩集。

Preview
A sample from the prepared text
Formats
Online reader, EPUB, PDF
Access
Library claim

Book introduction

若菜集

『若菜集』は、島崎藤村の初期詩集として日本近代詩の成立に大きな位置を占めます。青春の感情、自然へのまなざし、恋と憧れ、言文一致以前の新しい詩のリズムが響き、明治詩壇の変化を読むうえで重要な一冊です。

BooksWhale edition

How this edition was prepared

This edition is based on a public domain text and has been prepared for digital reading by BooksWhale.

Public domain basis

Why this edition can be shared

島崎藤村は1943年に没し、『若菜集』は1897年に刊行されました。これらの年代は日本語原文版の公版性を判断する根拠になります。

Read preview

A sample from the prepared text

Preview selected from the prepared reader text.

Preview chapterFull textRead preview

若菜集

島崎藤村

若菜集

島崎藤村

(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)

*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」

こゝろなきうたのしらべは

ひとふさのぶだうのごとし

なさけあるてにもつまれて

あたゝかきさけとなるらむ

ぶだうだなふかくかゝれる

むらさきのそれにあらねど

こゝろあるひとのなさけに

かげにおくふさのみつよつ

そはうたのわかきゆゑなり

あぢはひもいろもあさくて

おほかたはかみてすつべき

うたゝねのゆめのそらごと

一 秋の思

秋は来《き》ぬ

秋は来ぬ

一葉《ひとは》は花は露ありて

風の来て弾《ひ》く琴の音に

青き葡萄《ぶどう》は紫の

自然の酒とかはりけり

秋は来ぬ

秋は来ぬ

おくれさきだつ秋草《あきぐさ》も

みな夕霜《ゆふじも》のおきどころ

笑ひの酒を悲みの

盃《さかづき》にこそつぐべけれ

秋は来ぬ

秋は来ぬ

くさきも紅葉《もみぢ》するものを

たれかは秋に酔はざらめ

智恵《ちえ》あり顔のさみしさに

君笛を吹けわれはうたはむ

初恋

まだあげ初《そ》めし前髪《まへがみ》の

林檎《りんご》のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛《はなぐし》の

花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて

林檎をわれにあたへしは

薄紅《うすくれなゐ》の秋の実《み》に

人こひ初《そ》めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの

その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃《さかづき》を

君が情《なさけ》に酌《く》みしかな

林檎畑の樹《こ》の下に

おのづからなる細道《ほそみち》は

誰《た》が踏みそめしかたみぞと

問ひたまふこそこひしけれ

狐のわざ

庭にかくるゝ小狐の

人なきときに夜《よる》いでて

秋の葡萄の樹の影に

しのびてぬすむつゆのふさ

恋は狐にあらねども

君は葡萄にあらねども

人しれずこそ忍びいで

君をぬすめる吾《わが》心

髪を洗へば

髪を洗へば紫の

小草《をぐさ》のまへに色みえて

足をあぐれば花鳥《はなとり》の

われに随《したが》ふ風情《ふぜい》あり

目にながむれば彩雲《あやぐも》の

まきてはひらく絵巻物《えまきもの》

手にとる酒は美酒《うまざけ》の

若き愁《うれひ》をたゝふめり

耳をたつれば歌神《うたがみ》の

きたりて玉《たま》の簫《ふえ》を吹き

口をひらけばうたびとの

一ふしわれはこひうたふ

あゝかくまでにあやしくも

熱きこゝろのわれなれど

われをし君のこひしたふ

その涙にはおよばじな

君がこゝろは

君がこゝろは蟋蟀《こほろぎ》の

風にさそはれ鳴くごとく

朝影《あさかげ》清《きよ》き花草《はなぐさ》に

惜《を》しき涙をそゝぐらむ

それかきならす玉琴《たまごと》の

一つの糸のさはりさへ

君がこゝろにかぎりなき

しらべとこそはきこゆめれ

あゝなどかくは触れやすき

君が優しき心もて

かくばかりなる吾《わが》こひに

触れたまはぬぞ恨《うら》みなる

傘《かさ》のうち

二人《ふたり》してさす一張《ひとはり》の

傘に姿をつゝむとも

情《なさけ》の雨のふりしきり

かわく間《ま》もなきたもとかな

顔と顔とをうちよせて

あゆむとすればなつかしや

梅花《ばいか》の油|黒髪《くろかみ》の

乱れて匂《にほ》ふ傘のうち

恋の一雨《ひとあめ》ぬれまさり

ぬれてこひしき夢の間《ま》や

染めてぞ燃ゆる紅絹《もみ》うらの

雨になやめる足まとひ

歌ふをきけば梅川よ

しばし情《なさけ》を捨てよかし

いづこも恋に戯《たはぶ》れて

それ忠兵衛《ちゅうべえ》の夢がたり

こひしき雨よふらばふれ

秋の入日の照りそひて

傘の涙を乾《ほ》さぬ間《ま》に

手に手をとりて行きて帰らじ

秋に隠れて

わが手に植ゑし白菊の

おのづからなる時くれば

一もと花の暮陰《ゆふぐれ》に

秋に隠《かく》れて窓にさくなり

知るや君

こゝろもあらぬ秋鳥《あきどり》の

声にもれくる一ふしを

知るや君

深くも澄《す》める朝潮《あさじほ》の

底にかくるゝ真珠《しらたま》を

知るや君

あやめもしらぬやみの夜に

静《しづか》にうごく星くづを

知るや君

まだ弾《ひ》きも見ぬをとめごの

胸にひそめる琴の音《ね》を

知るや君

秋風の歌

さびしさはいつともわかぬ山里に

尾花みだれて秋かぜぞふく

しづかにきたる秋風の

西の海より吹き起り

舞ひたちさわぐ白雲《しらくも》の

飛びて行くへも見ゆるかな

暮影《ゆふかげ》高く秋は黄の

桐《きり》の梢《こずゑ》の琴の音《ね》に

そのおとなひを聞くときは

風のきたると知られけり

ゆふべ西風《にしかぜ》吹き落ちて

あさ秋の葉の窓に入り

あさ秋風の吹きよせて

ゆふべの鶉《うづら》巣に隠《かく》る

ふりさけ見れば青山《あをやま》も

色はもみぢに染めかへて

霜葉《しもば》をかへす秋風の

空《そら》の明鏡《かがみ》にあらはれぬ

清《すず》しいかなや西風の

まづ秋の葉を吹けるとき

さびしいかなや秋風の

かのもみぢ葉《ば》にきたるとき

道を伝ふる婆羅門《ばらもん》の

西に東に散るごとく

吹き漂蕩《ただよは》す秋風に

飄《ひるがへ》り行く木《こ》の葉《は》かな

朝羽《あさば》うちふる鷲鷹《わしたか》の

明闇《あけくれ》天《そら》をゆくごとく

いたくも吹ける秋風の

羽《はね》に声あり力あり

見ればかしこし西風の

山の木《こ》の葉をはらふとき

悲しいかなや秋風の

秋の百葉《ももは》を落すとき

人は利剣《つるぎ》を振《ふる》へども

げにかぞふればかぎりあり

舌は時世《ときよ》をのゝしるも

声はたちまち滅ぶめり

高くも烈《はげ》し野も山も

息吹《いぶき》まどはす秋風よ

世をかれ/″\となすまでは

吹きも休《や》むべきけはひなし

あゝうらさびし天地《あめつち》の

壺《つぼ》の中《うち》なる秋の日や

落葉と共に飄《ひるがへ》る

風の行衛《ゆくへ》を誰か知る

雲のゆくへ

庭にたちいでたゞひとり

秋海棠《しゅうかいどう》の花を分け

空ながむれば行く雲の

更《さら》に秘密を闡《ひら》くかな

小詩二首

ゆふぐれしづかに

ゆめみんとて

よのわづらひより

しばしのがる

きみよりほかには

しるものなき

花かげにゆきて

こひを泣きぬ

すぎこしゆめぢを

おもひみるに

こひこそつみなれ

つみこそこひ

いのりもつとめも

このつみゆゑ

たのしきそのへと

われはゆかじ

なつかしき君と

てをたづさへ

くらき冥府《よみ》までも

かけりゆかん

しづかにてらせる

月のひかりの

などか絶間なく

ものおもはする

さやけきそのかげ

こゑはなくとも

みるひとの胸に

忍び入るなり

なさけは説《と》くとも

なさけをしらぬ

うきよのほかにも

朽《く》ちゆくわがみ

あかさぬおもひと

この月かげと

いづれか声なき

いづれかなしき

強敵

一つの花に蝶《ちょう》と蜘蛛《くも》

小蜘蛛は花を守《まも》り顔

小蝶は花に酔ひ顔に

舞へども/\すべぞなき

花は小蜘蛛のためならば

小蝶の舞《まひ》をいかにせむ

花は小蝶のためならば

小蜘蛛の糸をいかにせむ

やがて一つの花散りて

小蜘蛛はそこに眠れども

羽翼《つばさ》も軽き小蝶こそ

いづこともなくうせにけれ

別離

人妻をしたへる男の山に登り其

女の家を望み見てうたへるうた

誰《たれ》かとゞめん旅人《たびびと》の

あすは雲間《くもま》に隠るゝを

誰か聞くらん旅人の

あすは別れと告げましを

清《きよ》き恋とや片《かた》し貝《がひ》

われのみものを思ふより

恋はあふれて濁《にご》るとも

君に涙をかけましを

人妻《ひとづま》恋ふる悲しさを

君がなさけに知りもせば

せめてはわれを罪人《つみびと》と

呼びたまふこそうれしけれ

あやめもしらぬ憂《う》しや身は

くるしきこひの牢獄《ひとや》より

罪の鞭責《しもと》をのがれいで

こひて死なんと思ふなり

誰《たれ》かは花をたづねざる

誰かは色彩《いろ》に迷はざる

誰かは前にさける見て

花を摘《つ》まんと思はざる

恋の花にも戯《たはむ》るゝ

嫉妬《ねたみ》の蝶《ちょう》の身ぞつらき

二つの羽《はね》もをれ/\て

翼《つばさ》の色はあせにけり

人の命を春の夜の

夢といふこそうれしけれ

夢よりもいや/\深き

われに思ひのあるものを

梅の花さくころほひは

蓮《はす》さかばやと思ひわび

蓮の花さくころほひは

萩《はぎ》さかばやと思ふかな

待つまも早く秋は来《き》て

わが踏む道に萩さけど

濁《にご》りて待てる吾《わが》恋は

清き怨《うらみ》となりにけり

望郷

寺をのがれいでたる僧のうたひ

Preview chapterPreview

老《おい》は若《わかき》は越《こ》しかたに

文《ふみ》に照らせどまれらなる

奇《く》しきためしは箱根山

弥生《やよひ》の末のゆふまぐれ

南の天《あま》の戸《と》をいでて

よな/\北の宿に行く

血の深紅《くれなゐ》の星の影

かたくななりし男さへ

星の光を眼に見ては

身にふりかゝる凶禍《まがごと》の

天の兆《しるし》とうたがへり

総鳴《そうなき》に鳴く鶯《うぐひす》の

にほひいでたる声をあげ

さへづり狂ふ音《ね》をきけば

げにめづらしき春の歌

春を得知らぬ処女《をとめ》さへ

かのうぐひすのひとこゑに

枕の紙のしめりきて

人なつかしきおもひあり

まだ時ならぬ白百合の

籬《まがき》の陰にさける見て

九十九《つくも》の翁《おきな》うつし世の

こゝろの慾の夢を恋ひ

音《ね》をだにきかぬ雛鶴《ひなづる》の

軒《のき》の榎樹《えのき》に来て鳴けば

寝覚《ねざめ》の老嫗《おうな》後の世の

花の台《うてな》に泣きまどふ

空にかゝれる星のいろ

春さきかへる夏花《なつはな》や

是《これ》わざはひにあらずして

よしや兆《しるし》といへるあり

なにを酔ひ鳴く春鳥《はるどり》よ

なにを告げくる鶴の声

それ鳥の音《ね》に卜《うらな》ひて

よろこびありと祝ふあり

高き聖《ひじり》のこの村に

声をあげさせたまふらん

世を傾けむ麗人《よきひと》の

茂れる賤《しづ》の春草《はるぐさ》に

いでたまふかとのゝしれど

誰かしるらん新星《にひぼし》の

まことの北をさししめし

さみしき蘆《あし》の湖《みづうみ》の

沈める水に映《う》つるとき

名もなき賤の片びさし

春の夜風の音を絶え

村の南のかたほとり

その夜生れし牝《め》の馬は

流るゝ水の藍染《あゐぞめ》の

青毛《あをげ》やさしき姿なり

北に生れし雄《を》の馬の

栗毛にまじる紫は

色あけぼのの春霞

光をまとふ風情《ふぜい》あり

星のひかりもをさまりて

噂《うはさ》に残る鶴の音や

啼く鶯に花ちれば

嗚呼この村に生れてし

馬のありとや問ふ人もなし

雄馬《をうま》

あな天雲《あまぐも》にともなはれ

緑の髪をうちふるひ

雄馬は人に随《したが》ひて

箱根の嶺《みね》を下《くだ》りけり

胸は踴《をど》りて八百潮《やほじほ》の

かの蒼溟《わだつみ》に湧くごとく

喉《のど》はよせくる春濤《はるなみ》を

飲めども渇《かわ》く風情あり

目はひさかたの朝の星

睫毛《まつげ》は草の浅緑《あさみどり》

うるほひ光る眼瞳《ひとみ》には

千里《ちさと》の外《ほか》もほがらにて

東に照らし西に入る

天つみそらを渡る日の

朝日夕日の行衛《ゆくへ》さへ

雲の絶間に極むらん

二つの耳をたとふれば

いと幽《かすか》なる朝風に

そよげる草の葉のごとく

蹄《ひづめ》の音をたとふれば

紫金《しこん》の色のやきがねを

高くも叩《たた》く響あり

狂へば長き鬣《たてがみ》の

うちふりうちふる乱れ髪

燃えてはめぐる血の潮《しほ》の

流れて踴《をど》る春の海

噴《は》く紅《くれなゐ》の光には

火炎《ほのほ》の気息《いき》もあらだちて

深くも遠き嘶声《いななき》は

大神《おほがみ》の住む梁《うつばり》の

塵《ちり》を動かす力あり

あゝ朝鳥《あさとり》の音をきゝて

富士の高根の雪に鳴き

夕つげわたる鳥の音に

木曽の御嶽《みたけ》の巌《いは》を越え

かの青雲《あをぐも》に嘶《いなな》きて

天《そら》より天《そら》の電影《いなづま》の

光の末に隠るべき

雄馬の身にてありながら

なさけもあつくなつかしき

主人《あるじ》のあとをとめくれば

箱根も遠し三井寺や

日も暖《あたたか》に花深く

さゝなみ青き湖の

岸の此彼《こちごち》草を行く

天の雄馬のすがたをば

誰かは思ひ誰か知る

しらずや人の天雲《あまぐも》に

歩むためしはあるものを

天馬の下《お》りて大土《おほつち》に

歩むためしのなからめや

見よ藤の葉の影深く

岸の若草|香《か》にいでて

春花に酔ふ蝶《ちょう》の夢

そのかげを履《ふ》む雄馬には

一つの紅《あか》き春花《はるはな》に

見えざる神の宿《やどり》あり

一つうつろふ野の色に

つきせぬ天のうれひあり

嗚呼|鷲鷹《わしたか》の飛ぶ道に

高く懸《かか》れる大空の

無限《むげん》の絃《つる》に触れて鳴り

男神《をがみ》女神《めがみ》に戯《たはむ》れて

照る日の影の雲に鳴き

空に流るゝ満潮《みちしほ》を

飲みつくすとも渇《かわ》くべき

天馬よ汝《なれ》が身を持ちて

鳥のきて啼《な》く鳰《にほ》の海

花橘《はなたちばな》の蔭を履《ふ》む

その姿こそ雄々しけれ

牝馬《めうま》

青波《あをなみ》深きみづうみの

岸のほとりに生れてし

天の牝馬は東《あづま》なる

かの陸奥《みちのく》の野に住めり

霞に霑《うるほ》ひ風に擦《す》れ

音《おと》もわびしき枯くさの

すゝき尾花にまねかれて

荒野《あれの》に嘆く牝馬かな

誰か燕《つばめ》の声を聞き

たのしきうたを耳にして

日も暖かに花深き

西も空をば慕はざる

誰か秋鳴くかりがねの

かなしき歌に耳たてて

ふるさとさむき遠天《とほぞら》の

雲の行衛《ゆくへ》を慕はざる

白き羚羊《ひつじ》に見まほしく

透《す》きては深く柔軟《やはらか》き

眼《まなこ》の色のうるほひは

吾《わ》が古里《ふるさと》を忍べばか

蹄《ひづめ》も薄く肩|痩《や》せて

四つの脚《あし》さへ細りゆき

その鬣《たてがみ》の艶《つや》なきは

荒野《あれの》の空に嘆けばか

春は名取《なとり》の若草や

病める力に石を引き

夏は国分《こくぶ》の嶺《みね》を越え

牝馬にあまる塩を負ふ

秋は広瀬の川添《かはぞひ》の

紅葉《もみぢ》の蔭にむちうたれ

冬は野末に日も暮れて

みぞれの道の泥に饑《う》ゆ

鶴よみそらの雲に飽き

朝の霞の香に酔ひて

春の光の空を飛ぶ

羽翼《つばさ》の色の嫉《ねた》きかな

獅子《しし》よさみしき野に隠れ

道なき森に驚きて

あけぼの露にふみ迷ふ

鋭き爪のこひしやな

鹿よ秋山《あきやま》妻恋《つまごひ》に

黄葉《もみぢ》のかげを踏みわけて

谷間の水に喘《あへ》ぎよる

眼睛《ひとみ》の色のやさしやな

人をつめたくあぢきなく

思ひとりしは幾歳《いくとせ》か

命を薄くあさましく

思ひ初《そ》めしは身を責むる

強き軛《くびき》に嘆き侘《わ》び

花に涙をそゝぐより

悲しいかなや春の野に

湧《わ》ける泉を飲み干すも

天の牝馬のかぎりなき

渇ける口をなにかせむ

悲しいかなや行く水の

岸の柳の樹の蔭の

かの新草《にひぐさ》の多くとも

饑ゑたる喉《のど》をいかにせむ

身は塵埃《ちりひぢ》の八重葎《やへむぐら》

しげれる宿にうまるれど

かなしや地《つち》の青草は

その慰藉《なぐさめ》にあらじかし

あゝ天雲《あまぐも》や天雲や

塵《ちり》の是世《このよ》にこれやこの

轡《くつわ》も折れよ世も捨てよ

狂ひもいでよ軛《くびき》さへ

噛み砕けとぞ祈るなる

牝馬のこゝろ哀《あはれ》なり

尽きせぬ草のありといふ

天つみそらの慕はしや

渇かぬ水の湧くといふ

天の泉のなつかしや

せまき厩《うまや》を捨てはてて

Table of contents

Inside this edition

  1. 01Full text
  2. 02

Language availability

Other languages

Additional language editions are not published yet. This section will link to other BooksWhale editions when they become available.

Request another language

若菜集

Membership $9.99 / year · claim access

PreviewJoin