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みみずのたはこと cover

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みみずのたはこと

Edición BooksWhale en japonés de Tokutomi Roka

農作業に親しむ村の暮らしを、身近な人々や自然との関わり、旅の記憶を通して綴った徳冨蘆花の随筆集。

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Introducción del libro

みみずのたはこと

徳冨蘆花が千歳村の粕谷で営んだ生活を中心に、農作業、近隣の人々、自然の移り変わりを綴る随筆集。旅やトルストイ訪問の記憶、関寛斎への思いも村の暮らしと結びついて語られる。日常の出来事を通して、労働、人とのつながり、信仰、生き方を考える作者の姿が見えてくる。本版は上下巻にわたる日本語本文を収める。

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徳冨健次郎(徳冨蘆花)は1927年に没した。本作は1913年に刊行され、原著の著作権保護期間は満了している。本版は日本語の原文を収録する。

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みみずのたはこと

Capítulo de vista previa故人に — 一Vista previa

儂の村住居も、満六年になった。暦の齢は四十五、鏡を見ると頭髪や満面の熊毛に白いのがふえたには今更の様に驚く。

元来田舎者のぼんやり者だが、近来ます/\杢兵衛太五作式になったことを自覚する。先日上野を歩いて居たら、車夫が御案内しましょうか、と来た。銀座日本橋あたりで買物すると、田舎者扱いされて毎々腹を立てる。後でぺろり舌を出されるとは知りながら、上等のを否極上等のをと気前を見せて言い値でさっさと買って来る様な子供らしいこともついしたくなる。然し店硝子にうつる乃公の風采を見てあれば、例令其れが背広や紋付羽織袴であろうとも、着こなしの不意気さ、薄ぎたない髯顔の間抜け加減、如何に贔屓眼に見ても――いや此では田舎者扱いさるゝが当然だと、苦笑いして帰って来る始末。此程村の巡査が遊びに来た。日清戦争の当時、出征軍人が羨ましくて、十五歳を満二十歳と偽り軍夫になって澎湖島に渡った経歴もある男で、今は村の巡査をして、和歌など詠み、新年勅題の詠進などして居る。其巡査の話に、正服帯剣で東京を歩いて居ると、あれは田舎のお廻りだと辻待の車夫がぬかす。如何して分かるかときいたら、眼で知れますと云ったと云って、大笑した。成程眼で分かる――さもありそうなことだ。鵜の目、鷹の目、掏摸の眼、新聞記者の眼、其様な眼から見たら、鈍如した田舎者の眼は、嘸馬鹿らしく見えることであろう。実際馬鹿でなければ田舎住居は出来ぬ。人にすれずに悧巧になる道はないから。

東京に出ては儂も立派な田舎者だが、田舎ではこれでもまだ中々ハイカラだ。儂の生活状態も大分変った。君が初めて来た頃の彼あばら家とは雲泥の相違だ。尤も何方が雲か泥かは、其れは見る人の心次第だが、兎に角著しく変った。引越した年の秋、お麁末ながら浴室や女中部屋を建増した。其れから中一年置いて、明治四十二年の春、八畳六畳のはなれの書院を建てた。明治四十三年の夏には、八畳四畳板の間つきの客室兼物置を、ズッと裏の方に建てた。明治四十四年の春には、二十五坪の書院を西の方に建てた。而して十一間と二間半の一間幅の廊下を以て、母屋と旧書院と新書院の間を連ねた。何れも茅葺、古い所で九十何年新しいのでも三十年からになる古家を買ったのだが、外見は随分立派で、村の者は粕谷御殿なぞ笑って居る。二三年ぶりに来て見た男が、悉皆別荘式になったと云うた。御本邸無しの別荘だが、実際別荘式になった。畑も増して、今は宅地耕地で二千余坪になった。以前は一切無門関、勝手に屋敷の中を通る小学校通いの子供の草履ばた/\で驚いて朝寝の眠をさましたもので、乞食物貰い話客千客万来であったが、今は屋敷中ぐるりと竹の四ツ目籬や、楆、萩ドウダンの生牆をめぐらし、外から手をさし入れて明けられる様な形ばかりのものだが、大小六つの門や枝折戸が出入口を固めて居る。己と籠を作って籠の中の鳥になって居るのが可笑しくもある。但花や果物を無暗に荒されたり、無遠慮なお客様に擾わさるゝよりまだ可と思うて居る。個人でも国民でも斯様な所から「隔て」と云うものが出来、進んでは喧嘩、訴訟、戦争なぞが生れるのであろう。

「後生願わん者は糂粏甕一つも持つまじきもの」とは実際だ。物の所有は隔ての原で、物の執着は争の根である。儂も何時しか必要と云う名の下に門やら牆やら作って了うた。まさか忍び返えしのソギ竹を黒板塀の上に列べたり、煉瓦塀上に硝子の破片を剣の山と植えたりはせぬつもりだが、何、程度の問題だ、これで金でも出来たら案外其様な事もやるであろうよ。

Capítulo de vista previa二Vista previa

畑の物は可なり出来る。昨年は陸穂の餅米が一俵程出来たので、自家で餅を舂いた。今年は大麦三俵籾で六円なにがしに売った。田園生活をはじめてこゝに六年、自家の作物が金になったのは、此れが皮切だ。去年は月に十日宛きまった作男を入れたが、美的百姓と真物の百姓とは反りが合わぬ所から半歳足らずで解雇してしまい、時々近所の人を傭ったり、毎日仕事に来る片眼のおかみを使って居る。自分も時々やる。少し労働をやめて居ると、手が直ぐ綺麗になり、稀に肥桶を担ぐと直ぐ肩が腫れる。元来物事に極不熱心な男だが、其れでも年の功だね、畑仕事も少しは上手になった。最早地味に合わぬ球葱を無理に作ろうともせぬ。最早胡麻を逆につるして近所の笑草にもならぬ。甘藷苗の竪植もせぬ。心をとめるものは心をとめ、肥料のやり時、中耕の加減も、兎やら角やら先生なしにやって行ける。毎年儂は蔬菜花卉の種を何円と云う程買う。無論其れ程の地積がある訳でも必要がある訳でも無いが、種苗店の目録を見て居るとつい買いたくなって買うのだ。蒔いてしまうのも中々骨だから、育ったら事だが、幸か不幸か種の大部分は地に入って消えて了う。其度毎に種苗店の不徳義、種子の劣悪を罵るが、春秋の季節になると、また目録をくって注文をはじめる。馬鹿な事さ。然し儂等は趣味空想に生きて、必しも結果には活きぬ。馬鹿な事をしなくなったら、儂が最後だ。

時の経つは速いものだ。越した年の秋実を蒔いた茶が、去年あたりから摘め、今年は新茶が可なり出来た。砂利を敷いたり剪枝をしたり苦心の結果、水蜜桃も去年あたりから大分喰える。苺は毎年移してばかり居たが、今年は毎日喫飽をした上に、苺のシイロップが二合瓶二十余出来た。生籬の萩が葉を見て花を見てあとは苅られて萩籬の料になったり、林の散歩にぬいて来て捨植にして置いた芽生の山椒が一年中の薬味になったり、構わずに置く孟宗竹の筍が汁の実になったり、杉籬の剪みすてが焚附になり、落葉の掃き寄せが腐って肥料になるも、皆時の賜物である。追々と植込んだ樹木が根づいて独立が出来る様になり、支えの丸太が取り去られる。移転の秋坊主になる程苅り込んで非常の労力を以て隣村から移植し、中一年を置いてまた庭の一隅へ移し植えた二尺八寸廻りの全手葉椎が、此頃では梢の枝葉も蕃茂して、何時花が咲いたか、つい此程内の女児が其下で大きな椎の実を一つ見つけた。と見て、妻が更に五六粒拾った。「椎が実った! 椎が実った!」驩喜の声が家に盈ちた。田舎住居は斯様な事が大した喜の原になる。一日一日の眼には見えぬが、黙って働く自然の力をしみ/″\感謝せずには居られぬ。儂が植えた樹木は、大抵根づいた。儂自身も少しは村に根を下したかと思う。

Índice

Dentro de esta edición

  1. 01Full text
  2. 02故人に — 一
  3. 03二
  4. 04三
  5. 05四
  6. 06五
  7. 07都落ちの手帳から — 千歳村 — 一
  8. 08二
  9. 09三
  10. 10都落ち — 一
  11. 11二
  12. 12村入
  13. 13水汲み
  14. 14憶出のかず/\ — 一
  15. 15二
  16. 16三
  17. 17四
  18. 18草葉のささやき — 二百円
  19. 19百草園
  20. 20月見草
  21. 21腫物 — 一
  22. 22二
  23. 23三
  24. 24四
  25. 25五
  26. 26六
  27. 27七
  28. 28わかれの杉
  29. 29白 — 一
  30. 30二
  31. 31三
  32. 32四
  33. 33ほおずき — 一
  34. 34二
  35. 35三
  36. 36四
  37. 37碧色の花
  38. 38おぼろ夜
  39. 39ヤスナヤ、ポリヤナの未亡人へ — 一
  40. 40二
  41. 41三
  42. 42四
  43. 43五
  44. 44安さん
  45. 45麦の穂稲穂 — 村の一年 — 一
  46. 46二
  47. 47三
  48. 48四
  49. 49五
  50. 50六
  51. 51七
  52. 52八
  53. 53九
  54. 54十
  55. 55十一
  56. 56十二
  57. 57媒妁
  58. 58螢
  59. 59夕立雲
  60. 60葬式 — 一
  61. 61二
  62. 62三
  63. 63四
  64. 64五
  65. 65田川
  66. 66驟雨浴
  67. 67村芝居
  68. 68夏の頌 — 一
  69. 69二
  70. 70三
  71. 71四
  72. 72低い丘の上から — 一
  73. 73二
  74. 74三
  75. 75四
  76. 76五
  77. 77六
  78. 78ひとりごと — 地蔵尊
  79. 79水車問答
  80. 80農
  81. 81一
  82. 82二
  83. 83三
  84. 84四
  85. 85五
  86. 86六
  87. 87七
  88. 88八
  89. 89九
  90. 90蛇 — 一
  91. 91二
  92. 92三
  93. 93四
  94. 94露の祈
  95. 95草とり — 一
  96. 96二
  97. 97不浄 — 上
  98. 98下
  99. 99美的百姓
  100. 100過去帳から — 墓守 — 一
  101. 101二
  102. 102三
  103. 103四
  104. 104五
  105. 105六
  106. 106綱島梁川君
  107. 107梅一輪 — 一
  108. 108二
  109. 109三
  110. 110四
  111. 111五
  112. 112六
  113. 113七
  114. 114八
  115. 115九
  116. 116十
  117. 117関寛翁 — 一
  118. 118二
  119. 119三
  120. 120四
  121. 121次郎桜
  122. 122きぬや
  123. 123命がけ
  124. 124暁斎画譜
  125. 125落穂の掻き寄せ — デデン
  126. 126芝生の上
  127. 127小鳥
  128. 128炬燵
  129. 129蓄音器
  130. 130春七日 — (一)雛節句
  131. 131(二)春雨
  132. 132(三)雨後
  133. 133(四)摘草
  134. 134(五)彼岸入り
  135. 135(六)蛇出穴
  136. 136(七)仲春
  137. 137ある夜
  138. 138与右衛門さん
  139. 139五月五日
  140. 140紫雲英
  141. 141印度洋
  142. 142自動車
  143. 143デカの死
  144. 144ハムレット
  145. 145春の暮
  146. 146首夏
  147. 147憎むと枯れる
  148. 148麦愁
  149. 149堀川 — 一
  150. 150二
  151. 151三
  152. 152ムロのおかみ
  153. 153田圃の簑笠
  154. 154つゆ霽れ
  155. 155有たぬ者
  156. 156食われるもの
  157. 157蜩
  158. 158夏の一日
  159. 159明治天皇崩御の前後 — 一
  160. 160二
  161. 161三
  162. 162四
  163. 163五
  164. 164六
  165. 165七
  166. 166八
  167. 167九
  168. 168御大葬の夜
  169. 169乃木大将夫妻自刃
  170. 170コスモス
  171. 171秋さびし
  172. 172展望台に上りて — 上
  173. 173下
  174. 174暮秋の日
  175. 175二つの幻影
  176. 176入営
  177. 177生死
  178. 178天理教の祭
  179. 179渦巻
  180. 180透視
  181. 181雪
  182. 182読者に — (一)
  183. 183(二)
  184. 184(三)
  185. 185(四)
  186. 186附録 — ひとりごと — 蝶の語れる
  187. 187旅の日記から — 熊の足跡
  188. 188紅葉狩
  189. 189「みみずのたはこと」に関する著者の文章
  190. 190百〇一版の巻首に
  191. 191みゝづのたわこと(新刊予告)
  192. 192みみずのたはこと(新刊) — みゝずのたはこと(廿八版)
  193. 193武蔵野の土の産物みゝずのたはこと
  194. 194みゝずのたはこと(ポイント改版)
  195. 195縮刷みゝずのたはこと(七十四版)
  196. 196みみずのたはこと(八十三版)
  197. 197みみずのたはこと(百〇一版)
  198. 198みみずのたはこと(百〇五版)
  199. 199復活した「みみずのたはこと」(百〇八版)

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